感想文: きみの色
映画「きみの色」 を観てきました。感想を書きます。
友人の映画オタクに きみの色 がとてもおすすめですと言われました。
前情報としてはなんかギターを持った女の子がいるというのと、山田尚子監督だという2つだけだったので、ぼっち・ざ・ろっく!やガールズバンドクライ的なガールズバンド作品のテイストが違うやつなのかなと思っていました。
実際に観てみると、きみの色はそれらとはまた別の独特な良さがありました。というかガールズバンドじゃないし物語の構造も違うから比較ができないというか。
個人的に きみの色 からは素朴さを第一に感じました。舞台は田舎で、主人公はキリスト系の学校に通っていて、浮世離れした世界観です。舞台だけでなく、物語の作りについても素朴さを感じます。王道のストーリーなら田舎と都会や、キリスト教とロック、恋愛、そういった対立構造を主人公と環境の関係や感情に落とし込んでいくのが普通だと思います。でも きみの色 はそうではない。都会に出ていくバンドメンバーの男の子は単に島を出て別れるという田舎の日常の一つとして描かれて、恋愛の描写については黒髪の女の子と主人公が男の子にクリスマスプレゼントを選ぶシーンで色の見え方が変わる点のみ、キリスト教とロックは対立することなくシスターはライブで踊っている。物語の構造がフラットで、映画を観る人の感情を意図的にコントロールしない素朴さがありました。
田舎なのに窮屈ではない、親と対話できなくて苦しい思いをする描写もそこまで窮屈に描かれない。そのマイナス要素の描き方のフラットさによって、3人の音楽はすがりつく救いではなく、自由な祈りになっている点が特徴的でした。
この映画を観て、「そういや音楽って自由だな」と思いました。日々たくさん音楽の上手な人たちの曲に触れていると、僕はどこかで音楽は誰かのものであると思っていたようでした。本来は音が鳴ると楽しいとか、何かを解決するために音楽を上達させることが全てではないとか、そういった音楽と成長の固定観念を外した先にある自由で素朴な祈り、そういった、手捻りで作られた陶器のようなやわらかくあたたかい感情を持ちました。
物語の構造でいくと、主人公が音楽が特に劇的に上達するわけでもない点や、主人公の色が見える能力が特に何に生かされているわけでもない点、キリスト教の要素がめちゃ絡んでくるわけでもない点とかも好きです。現実との地続きさが感じられます。しかし一方で、主人公は色が見えているからこそ一歩を踏み出していけた。その境界に勇気づけられる気がしました。
音楽ってやっぱいいですね。